1. 問題の背景:不採算薬価と爆増する医療費
最近、多くの薬が手に入りにくくなっています。この問題の背景にあるのは、薬価が適正な利益を生み出さない状態、いわゆる【不採算薬価】です。さらに、この背景には、日本の医療費が年々増加しているという事実があります。
令和3年度の総医療費は45兆円に達し、この金額は韓国やベルギーの国家予算に匹敵します。この膨大な医療費の中で、国民は保険料として約5割を支払い、残りは自己負担と税金で賄っています。しかし、国民皆保険制度が始まった1961年当時の負担率は6.3%だったのに対し、現在は10%にまで増えています。
2. 政府の対策と製薬企業への影響
医療費を抑えるために、政府は薬価を改定のたびに下げ続けてきました。しかし、この薬価引き下げが製薬企業にとっては大きな打撃となっています。営利企業である製薬企業は、利益が出なければ事業を継続することができません。そのため、コスト削減や海外市場への進出など、さまざまな手段を講じてきましたが、限界が近づいています。
3. セファゾリンの流通障害とその影響
その一例が、2019年に起きたセファゾリンという必須医薬品の流通障害です。これは、原薬の調達が困難になったことが原因でした。セファゾリンは術後感染症予防などに広く使われる薬で、この時の混乱は医療現場に大きな影響を与えました。この問題は、製薬企業の体力と体制の限界を露呈したものであり、その後も人員不足や不適切な操作が原因で、前代未聞の流通障害が発生しています。
4. 国際情勢と流通人材不足の影響
薬不足の問題には、国際情勢の不安定化や流通人材の不足といった要因も複雑に絡み合っています。これらの要因が、薬の供給をさらに難しくしています。
5. 今後の展望:OTC化と医療制度の縮小
今後、国は多くの医薬品をOTC(市販薬)化し、国民皆保険制度自体を縮小する方向に進む可能性があります。これは、種々の検討委員会の議論からもうかがえる動きです。
まとめ:社会構造全体に関わる深刻な課題
薬不足は単なる一時的な問題ではなく、日本の医療制度や社会構造全体に関わる深刻な課題です。これを解決するには、私たち一人ひとりがこの問題に関心を持ち、理解を深めることが求められています。